山陽熱工業株式会社は城下町の風情が残る、津山市城東地区に立地する農業機械部品等製造する会社です。
農業機械部品には、通常の機械では成型が非常に難しい特殊形状のものも多く、また、性能向上のための改良が常に求められていることから、「技術」と「知恵」と「想像力」で各メーカーやユーザーのリクエストに応え、高い信頼を得てきました。
そんな山陽熱工業株式会社が今挑戦しているのは、無農薬米栽培の常識を大きく変える「水田除草機」の開発です。
「この機械が普及することで、地元の農家がもっと有機農法に取り組んでくれたら…。」山陽熱工業株式会社の杉本会長が、中山間地の水田除草機開発を開始したのは2年前の平成27年。
家族が安心して食べれるようなお米や野菜を作りたいと、阿波地域で無農薬農法に取り組む生産者 藤井昌博さんに出会ったことが始まりでした。
無農薬米はその安心感から需要も多く価値も高いのですが、農薬を使わないため栽培は雑草との戦いです。その重労働から少しでも解放できる機械を製作できないかと、つやま産業支援センターが同社に相談したのがきっかけです。
支援センターから紹介された藤井さんは、無農薬のリンゴの栽培に取り組む傍ら、アヒルを使い、農薬や化学肥料を一切使わないお米の栽培も手掛けられていました。アヒル農法では後始末を行う中で、除草に貢献してくれたアヒルを自分の手で処分しなければならず、それが忍びないという気持ちから、田植機に自ら改良を加え除草作業をされていました。
しかし、農薬を使わない農法では、雑草の除草が大きな課題となってきます。
当初、自作のチェーン式のアタッチメントで除草をされていましたが、田んぼの起伏に合わせてトラクターが上下する度に、アタッチメントも上下するので、安定して除草ができないことや、トラクターの車輪跡にチェーンが寄ってしまうなどの問題があり、効果も芳しいものではありませんでした。
藤井さんは口数が多い方ではなかったですが、自ら工夫したチェーンなどの器具や家族のために一生懸命取り組む姿を見て心を打たれ、弊社の技術を活かし、作業負担を軽減できる水田除草機開発に取り組んでみようと考えました。
津山市のような中山間地の水田での有機農法を応援するために、主流の4条植えの田植機にメーカーを問わず取り付けられるアタッチメントタイプの除草機具です。
有機の栽培では除草が極めて大きな負担となっています。中山間地の小さな田んぼでも小回りが利き使用できる安価で高性能な小型の除草機は大手メーカーもあまり手をつけておらず、今行っている実証実験を経て販売が可能になれば全国の中山間地で大きなニーズがあると見込まれます。今実験しているのは、ホイールタイプで装着した爪により雑草を地面に埋め込む機能に加え、車輪の回転の力で駆動する爪により株間(稲と稲の縦の間)を除草する機構を搭載しています。
これまで地道に改良を加え、当初目指した性能に着実に近づいています。
例えば今1俵1万円のお米が3万円になるなどの付加価値化にも貢献していくことや、生産者の負担を減らし、耕作放棄地の解消にもつながれば良いですね。
昨年、ある生産者が実際に使っていただいたときに、「もう人力には戻れない!」とコメントをされたときは、この上なく嬉しかったことを覚えています。
今の田んぼではゲンゴロウやヤゴなどの生き物を見かけることが少なくなりました。農薬など、目に見えないものが影響しているのではないかと思います。そんな田んぼでできたお米でも普段食べている限りでは美味しいかもしれませんが、そのような状況を見ると本当に安心安全なのか複雑な気持ちになります。安心安全な食に繋がるという意味でも、この開発が将来の子供たちのためになるのではないかと考えています。
ものづくりは1年を通して行うことができますが、稲作などの農業は限られた期間しか実験ができず、改善点の対策を打つのも次の年になってしまいます。自然が相手で次々と問題が現れてくる中、非常にもどかしく感じました。
がむしゃらに突き進んできた昨年を振り返ると、平成29年度は本格的な実験ができているのではないかと感じています。昨年の仕様は、爪で引っ掻いて雑草を抜くタイプでした。当初、草は掻きむしれば水面に浮いてくるし、取れていると思っていましたが、少しでも除草に適した日が過ぎてしまうと除草機の爪が全く意味を成さないことが分かりました。雑草は生えるし、稲は痛めてしまうし(泣)。
昨年の反省を踏まえて、今年は雑草を埋め込む方法を採用しました。つやま産業支援センターの小坂統括マネージャーからも「やみくもに様々な方法を試すだけでは知見が溜まらず成果につながらない。」とのアドバイスもあり、テーマを絞り、明確な目標を立てたうえで改良を重ねています。
また、実験用の圃場も整備しました。通常であれば、年間の決められた期間しか田んぼに水を張ることはできませんが、つやま産業支援センターのサポートで冬期でも実験することができ、完成に向けての実験・改善のサイクルを加速させています。この圃場が無ければ、今年の実験や効果は実現できていなかったと思います。
どんな機械であってもつくるのであれば、完璧を目指したい。でもまだまだ課題はあります。
昔の除草機具なども見ましたが、昔の人は良く考えたんだなと感心しています。
その他にも、実際に使用する人や環境など様々な条件を考えて形にしていきたいと思います。例えば、圃場内で車体を回転させるときに不要に稲を踏みつけない機構であるとか、異なる圃場の深さに対応して、アタッチメントの高さが一定に調整できるような仕組みを考えています。
弊社の技術でできる限り課題をクリアしたうえで提供していきたいですね。
協力してもらう農家さんやつやま産業支援センターのアドバイザーの人たちと「あ~でもない」、「こ~でもない」とディスカッションを重ねながらここまで進めてこれました。
元々機械を使って問題を解決するのが好きでしたが、多分これほど時間をかけて考えた機械は今までになかったと思います。
次々現れる問題や高い目標に悩んだこともありますが、それでも目標に向かって一つ一つ解決を進めていくことでゴールが見えてきたことに喜びを感じています。